●脳の符号化、情報表現に関する最新の理論的、生理学的知見をまとめた論文集である『脳の情報表現・ニューロン、ネットワークと数理モデル』を編者として出版した。 ●大脳新皮質における抑制性介在細胞のギャップ・ジャンクション結合系の動力学の研究 大脳新皮質における抑制性介在細胞間(FS細胞間、LTS細胞間)において、膨大なギャップ・ジャンクション(gap junction、以下GJと略記)と呼ばれる電気結合の存在が近年、報告されている。脳の情報表現の研究への基礎作業として、大脳新皮質におけるFS細胞のGJ結合系の動力学の検討をおこない、新皮質における"GJ結合抑制系は時空カオスを内包する"という原理的可能性を提示した。この研究成果は、特定領域研究『先端脳』研究集会において速報した。また、現在、論文を準備中である。 1.主要な結果は、新皮質における"I類細胞のGJ結合系は、一定の条件下で顕著な時空カオスを内包する"と要約できる。一定の背景入力が存在すれば、たとえ背景入力に時間的・空間的ゆらぎが存在しなくとも、顕著な不規則時空パターンが内発的に生じる。 2.モデルIaのGJ結合系にかんして、その大域的な分岐構造をAUTOにより解析し、この系は多くの"アトラクタ痕跡"をもち、さらにサドル・ノード点の近傍において、すべての分岐アトラクタが安定性を喪失している可能性を示した。系のもつ"不規則な時空パターン"が、存在する多数の周期アトラクタ痕跡を経巡る"カオス的遍歴"である可能性、そのような大域的不安定性をもたらす数学的構造など、数理的にも興味深い研究課題を提起した。 3.以上の結果の意味は、新皮質における"GJ結合抑制系は時空カオスを内包する"という原理的可能性にある。このような原理的可能性自身、脳における情報の表現と符号化に関する研究に重大な意味をもっことはあきらかである。
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