研究概要 |
年度途中の採択であったため,分担者と一緒に何かまとめる時間的余裕はなかったが,研究代表者個人の研究として次のような研究を行った. ・以前から継続の研究として,内部に進展する亀裂を含む弾性波動方程式の解析を進めた.具体的には解が存在するための亀裂進展の制限速度を,いろいろな方向の弾性表面波の速さ(あるいは「限界速度」)を用いて,完全に特徴づけることができた.この話題については東大地震研での研究会で発表し,他分野の研究者との間で意見を交換することができた. ・Barnett-Lotheテンソルの(微分方程式論的見地による)新しい導出法を発見した.非等方弾性体2次元的変形を扱う大変有効な手段として「Stroh形式」が知られているが,それを発展させる過程でBarnettとLotheは3種類のテンソルを導入した.しかし,彼らの導出法では,基本的役割を果す行列が半単純でない場合には,いちいち場合分けをして議論する必要が生じる.これを先の行列のタイプに依存しない新しい方法で導出し,更に微分方程式立場から,関連するいろいろな性質を調べた.偏微分方程式への応用としては,必ずしも強楕円型ではない楕円型システム(圧電体方程式が好例)の境界値問題,対応する波動方程式の初期境界値問題が挙げられる.また,亜音速表面波の存在の判定条件,構成,個数の評価にも有効である. ・数式処理ソフトMathematicaを用いていろいろな非等方弾性体の反速曲面を描く実験を行った.比較的単純な弾性係数をもつtransversely isotropicの場合でさえ、パラメータの取り方により十分に複雑な図形となる.今後の偏微分方程式の研究に生かしていきたい.
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