研究概要 |
今年度は,研究課題に関連して以下の研究を行った. ・昨年度の研究で,非等方弾性体の理論では有名な「Barnett-Lotheテンソル」に対して(微分方程式論的見地による)新しい導出法を与えた.今年度は,それを発展させて,これらは境界の余接束上で定義されるシンボルであることを明らかにし,更に,2階楕円型システムに対して,Dirichlet,Neumann境界条件だけでなく,いわゆる「一般境界条件」(たとえば滑り境界条件など)を扱う際にも同様なシンボルが定義され本質的な役割を果たすことを示した.なお,この研究に関して,偏微分方程式の国際会議,数学以外の研究会を含めて,いくつかの研究会で発表する機会に恵まれ,多くの研究者と話ができたことは有意義であった. ・以前に行っていた研究の継続として,定数係数の斉2次形式に対する一様正値性(Poincare型不等式の成立)の研究を行った.スカラー関数の場合には,シンボルが非負値である方向に退化していないということから一様正値性が従うが,ベクトル値関数になるとそれほど状況は単純でない.空間次数かベクトルの長さのどちらかが2の場合に,この一様正値性の成立条件を,以前に研究していた行列多項式の因数分解を手段とし,シンボルの実単因子の言葉を用いて,slab領域の上で完全な,有界領域の上でほぼ完全な特徴付けを行った. ・滑り境界条件(あるいはそれに共役な境界条件)に対するKorn不等式の研究を行った.具体的には境界上で境界と平行(あるいは垂直)となるベクトル場に対して,変位の歪みエネルギーとH^1ノルムが同値になるため条件が,領域の対称性によって述べられる.空間次元3の場合には領域が軸対称でなければよいことが以前から知られていたが,これが一般次元かつ一般のLame定数の場合にどのように拡張されるかを明らかにした.
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