研究概要 |
線型偏微分方程式系における有名な未解決問題「包合的過剰決定系が楕円型であれば局所C^∞解を有するか?」に関連し,本年度においては主として2独立変数1未知関数に関する方程式系についての研究を行い,この場合には楕円型包合系は局所C^∞解を有するという存在定理を証明することができた,この未解決問題は一般の場合は非常に難しい問題でありいまだわずかな結果しかえられていない.例えば1970年頃にMackichanが与えた結果は「楕円型包合的偏微分方程式系がさらにδ-estimateを満たせば局所C^∞解を有する」というものである.この結果は重要で意義深いものであるが,δ-estimateを満たすと言う条件が非常に強い制約条件であり,一般の場合の解決と言うには程遠いものである.当研究で扱った偏微分方程式系のクラスは狭く特殊なものであるが新しい結果であり,また定理の証明方法も従来のものとは異なる.上述のMackichanの定理は,付随するD-Neumann問題をSweeneyが確立した方法で解くことにより証明されている.残念ながらSweeneyの方法は一般の場合にはうまくいかないことがSweeney自身が与えた具体例によって示されている.本研究でD-Neumann問題を扱わず異なる方法をもちいた一つの理由はこのためである.本研究の目的の一部は,未解決問題の困難さがどこにあるかをより深く考察し,一般的な場合の解決への手がかりをうることおよび新しい方法の有効性を験すことにあったが,この点においても当初の目的をほぼ果たすことができたと考えている.
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