研究概要 |
線型偏微分方程式系の楕円型過剰決定系に対するC^∞解の存在問題は,楕円型決定系の場合と異なり,微妙で難しい問題であり,非常に強い制約条件のもとでの結果しか得られていない.前年度では最も構造が簡単である2独立変数1未知関数に関する過剰決定系に対し,新しい方法を試み,楕円型包合系は局所C^∞解を有するということを示すことができた.しかしながらこのクラスは余りにも狭くまた技術的にもその構造の特殊性を使う為,この実績のみを踏まえて直ちに一般の場合を研究するには飛躍がありすぎるので,本年度はまず独立変数の個数は2だが未知関数の個数には制限を設けない場合を考察することから始めた.一般に局所C^∞解の存在問題は,対応するある短い微分複体の完全性の問題として表現され,さらに後者はいわゆるSpencer列の第一項における完全性と同値であることが知られている.2独立変数の場合にこのSpencer列を調べると,単純で都合のよい局所表現を持つことが分かり,その結果前年度試みた方法をこの列に修正を施しつつ適用して,その完全性を示すことができた.かくして2独立変数に関する楕円型包合系は局所C^∞解を有するという定理を得た.これにより2独立変数の楕円型線型過剰決定系に対する局所C^∞解の存在問題は完全に解決されたことになる.引き続いて独立変数の個数が3以上の場合の考察にはいったが,微分方程式系の構造において2独立変数の場合とは決定的に異なる様相が生じる為,結果を得るには未だ不十分な段階に留まっている.
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