研究概要 |
走化性方程式系を含む非線形拡散方程式系の解の数値解析を行った。数値解法として,空間変数については有限要素法を時間変数についてはRunge-Kutta法を基にした離散化スキームを考案するとともに,そのスキームに対する理論的な考察を行った。まず,線形放物型方程式系に対する半群理論を用いた厳密解の構成方法にならい,離散半群,離散発展作用素を定義するとともに近似線形方程式の解を表現する公式を与えた。次に,考案したスキームに含まれる近似非線形方程式に対する解,すなわち元の非線形方程式系に対する近似解の存在を示した。さらに,導入した離散半群,離散発展作用素が持つ性質を明らかにしそれらを用いて,空間および時間の刻み幅を小さくしたときの近似解の安定性と収束性を保証する定理の証明を行った。安定性を保証した結果については,平成11年6月にJapanese Journal of Mathematicsより出版される予定である。収束性についての結果は,現在出版に向けて原稿を準備しているところである。 これらの理論面からの研究成果も踏まえて実際の数値計算も実施した。計算機として大型計算機センターのスーパーコンピューターを用いるためのプログラム開発をおこない,空間次元が1の場合についていくつかの数値計算を実行した。方程式に含まれ走化性の度合いを表すパラメータをかなり大きくとっても(他のパラメータの約100倍),刻み幅を適当に小さくさえすれば本スキームは安定で実用に耐えられることが分かった。反面,スキームには正値性がなく正値な解を得るためにはやはり刻み幅を小さくする必要があるということが分かった。
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