研究概要 |
平成10年度には,走化性方程式に対する有限要素法とRunge-Kutta法を組み合わせた離散スキームを提案し,さらにスキームの安定性と収束性の理論的証明を行った。本年度は,前年度の成果を踏まえ,本スキームを元に実際に数値計算を実行するためのアルゴリズムの開発を行うとともに,阪大大型計算機センターの計算機を利用して本格的な数値計算を実施した。2次元走化性方程式の解の数値計算を行うあたり既存のアルゴリズムを使おうとすると,行列計算において膨大なメモリーが必要となり,信頼性のある計算結果を得るために十分な数の空間変数の離散化を行うことができない。そこで本研究では,係数行列において行の適当な入れ替え法を見出し,計算メモリーを節約するアルゴリズムの考案を行った。その結果,1次元では空間変数を8192まで,2次元では256まで分割が可能となることが分かった。次にこの分割数による計算結果の信頼性を評価したところ,1次元では1024分割すれば十分に信頼できる数値データが得られること,しかしながら2次元では256分割では十分でなく走化性の項が拡散項に比べ十分小さいときしか定量的に信頼性のあるデータが得られないことが明らかとなった。今回の数値計算により走化性方程式の解の大域的挙動については,化学物質に対する感応関数の形により細胞性粘菌の空間分布パターンは大きく変化すること,増殖項を持つ走化性方程式においては期待されているような同心円パターンや分岐パターンに対応する解が確かに存在するとが確認された。 これらの成果はいくつかの研究集会ですでに口頭発表いているが,詳しい内容についてとりまとめたものは現在,学術雑誌に投稿中の段階である。
|