研究概要 |
物理学、特に流体力学、電磁気学、相対性理論等に現れる基礎方程式は概ね非線型双曲型偏微分方程式の形に記述される。この方程式に対する初期値問題について研究した。この問題に対する大域的理論はまだ十分に発展していない。その理由の一つは『古典解が大域的に存在しない』、即ち『解に特異点が現れる』ためである。そして特異点が種々の興味深い現象が現れる要因となっていることが多い。我々の主な目的は『(1)古典解が存在する領域を明確に記述すること,(2)特異点を越えて解を延長すること』である。今年度中に得られた主な成果を列挙する。(1)ガウス曲率が負である曲面を記述する2階非線形双曲型方程式がDarboux-Goursatの意味で可積分である為の必要十分条件を与えたこと、そしてその場合に解曲面の特異性を構成した。(1)はHa Tien Ngoan(Hanoi Inst.of Math.)とD.Kongとの共著論文であるが、その内容は辻幹雄の結果(Banach Center Publ.,39(1997),161-170)を拡張したものである。ここで注意をする必要がある点は「Darboux及びGoursatにより導入された積分可能条件は大変強い」ということである。たとえば数理物理学に現れる多くの基礎方程式が彼等の条件を満たさない。従って必然的にその様な条件を満たさない方程式を考察することになった。その結果得られたのが次の結果である。(2)或る非線形双曲型方程式のクラスに対してcotangent spaceにおいて解を大域的に構成することが出来ることを示した。そしてその目的の為に「幾何学的解」という概念を導入した。我々の手法は先ず方程式をcotangent spaceの中で表現する。次にその方程式を解くと解の特異点が消える。従って解を大域的に延長することが可能となる。現在、この結果をどこまで一般化出来るかを検討している最中である。
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