研究概要 |
物理学に現れる多くの基礎方程式は非線型双曲型方程式の形に記述される。これらの方程式に対する大域的理論がまだ十分に発展していない。その理由の一つは『古典解が大域的に存在しない』、即ち『解に特異点が現れる』為である。そして特異点が種々の興味深い現象が現れる要因となっている。我々の目標は『(1)古典解が存在する領域を明確に記述すること,(2)特異点を越えて解を延長すること』である。解の特異点の代表的な例は衝撃波である。では特異点をどう処理するか?特異点という課題は或る視点から見ると数学が発展する為の原点であった。例えばRiemann面や代数曲面論。そこで用いられている手法は「特異点を消す」のである。実際、高次元空間に持ち上げれば「代数多様体の特異点を消すことが出来る」というのが有名な「広中の定理」である。解析学においてもこの考え方を応用してみる。即ち高次元空間に持ち上げて特異点を消す。こうして得られた解を「幾何学的解」とよぶ。しかし幾何学的解を構成する為には或る偏微分方程式系を解かねばならない。この箇所が最初の難所であった。ここ数年の研究により或る場合に可能であることが判った。すると高次元空間において解を一意的に延長することが出来る(初期値問題の解の一意性)。その後、解を元の空間に射影するのである。この過程において接触幾何学の概念や特異点論の結果が必要となる。このプログラムを或る方程式に対してやっと仕上げた。この問題はここ2、3年の懸案の一つであった。これが今年度の最大の成果である。今後の課題は「2階非線形双曲型方程式に対する幾何学的理論を完全にすること、及び方程式を一般化すること」である。
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