研究概要 |
本年度はConley indexを用い,ホモクリニック軌道やそれと類似のヘテロクリニック軌道と呼ばれる大域的な軌道をとらえることにより力学系(主にベクトル場)の大域的構造について研究した.特に特異極限系や,より退化した分岐を扱えられるようにConley indexの枠組みを見直し,一般化し,いくつかの問題に適用した. 論文[1],[2]は特異摂動的ベクトル場に対してConley indexの理論を拡張しようとする試みである.輪文[1]ではConley indexの理論においてヘテロクリニック軌道の分岐を調べる際に重要な役割を果たすtransition matrixを特異摂動的ベクトル場のConley index理論を構築するために有用な形に改良した.また論文[2],口頭発表(5)ではConley indexの理論をslow-fast systemsと呼ばれるある種の特異摂動的ベクトル場に対して,構築するための第一歩としてslow manifoldがnormally hyperbolicで1次元である場合について扱った.具体的には,そのような力学系における周期軌道やヘテロクリニック軌道の存在を示す位相的・代数的な条件を見い出した. 論文Chaotic solutions in slowly varying perturbations of Hamiltonian(T.Gedeon,H.Kokubu,K.Mischaikow,and H.Oka)は現在投稿中であるが,論文[2]の結果を浅い水の流れに関する不規則な振動現象を記述するあるモデル方程式に通用し,その振舞いがある意味でカオス的であることを数学的に証明したものである.これは先行するHastings-McLeodの論文において提示された予想に解答を与えており,我々の方法の有用性をよく示すものであると考えられる. 論文[3]ではヘテロクリニック軌道の分岐を調べるために有用な代数的方法であるtransition matrixの理論を力学系の多重パラメータの族の場合へ拡張した.それによって従来の余次元1の分岐だけでなく,より退化した分岐も取り扱えるようになると期待される.
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