研究概要 |
原始星やTタウリ型星のような若い星の周りにあるガス円盤において分子の形成を調べることは、惑星系の形成とその化学組成を明らかにする上できわめて重要な課題である。今年度は、中心星に向かって物質が降着している原始惑星系円盤において、大規模な反応ネットワークを使用して分子存在量の時間進化を数値的に調べ、次の研究結果を得た。 1. 宇宙線が透過できるような領域では、もともとガス円盤に存在したCOとN_2はH^+_3やHe^+などのイオンとの反応によってCO_2,CH_4,NH_3やHCNに変化していく。ガスの温度が低い外側の領域では、これらの物質は固体微粒子(ダスト)表面に吸着されて、氷のマントルが形成される。物質の降着によって温度が高くなると、形成されたマントルは蒸発し、化学反応によってより難揮発性の物質が形成されることになる。したがって、分子の存在量は、ガスの温度、すなわち中心星から距離に強く依存している。 2. このような化学進化が起こる時間尺度は、宇宙線によるガスの電離率とダストのサイズに強く依存している。ガスの電離率やダストのサイズが分子雲と同程度の値の場合、COやN_2がほかの分子に変化するために必要な時間は10^6年程度で、ガス円盤の寿命よりも少し短くなっている。 3. 得られた化学組成を、太陽系における最も初期の天体である彗星の化学組成と比較した。その結果、彗星で観測されている酸化物質(CO_2など)と還元物質(NH_3など)の共存が、われわれのモデルでは自然に説明できることが明らかになった。
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