われわれは、活動銀河核(クェーサー)の中心構造を観測的に分解する、一つの画期的な方法をあみ出した。これは重力マイクロレンズを利用するものであり、アインシュタインクロスとよばれる天体Q2237+0305を用いる。アインシュタインクロスとは、遠方(z=1.69)のクェーサーが、近傍の銀河(z=0.04)にょる重力(マクロ)レンズをうけた結果、四つの像が十字形に並んで観測されているものである。このクェーサー像の中心の前を、レンズを起こしている銀河の中の星が通過すれば、マイクロレンズが起きる。クェーサー中心のごく狭い領域からの光のみが選択的に増幅されるのである。このソースでは、マイクロレンズ現象がすでに複数回観測されている。 手始めにまず、マイクロレンズにより期待される多波長域強度変化を世界で初めて最新の降着流モデル(移流優勢流モデル)を用いて計算し、ポテンシャルの深さや、コンプトン散乱を引き起こす高温電子の分布および軟光子の発生領域の大きさを見積もる方法を提唱した(Yonehara et al.1998)。こうして、降着流のブラックホールのごく近傍(半径数天文単位)の放射特性が明らかにされることを見いだした。 次いで逆問題、すなわち降着流モデルを仮定しないで、観測データから直接、円盤の輻射特性を求める方法の開発をおこなった。これには標準的な逆問題の手法である正則法およびアーベル型積分方程式の理論を用いる。アインシュタインクロスの場合、0.02等以下の精度の観測を3日おき程度の頻度で観測すれば、数天文単位単位の放射特性が明らかにされることをシミュレーションにより確認した(Mineshige & Yonehara投稿準備中)。この手法は近々予定されているAXAFによるX線観測に応用される。
|