小質量天体(例えば星)が天体像のごく一部の領域に対して重力レンズ効果を及ぼすと、像全体の像光として観測される。このマイクロレンズ現象を用いると、活動銀河核(クェーサー)の中心構造を観測的に分解することができる。ターゲットはアインシュタインクロスとよばれるQ2237+0305。これは遠方(z=1.69)にあるクェーサーが、近傍の銀河(z=0.04)による重力(マクロ)レンズをうけて、四つの像が十字形に並んで観測されているものである。このクェーサー像の中心の前を、レンズを起こしている銀河中の星が通過すれば、クェーサー像の明るさが刻一刻変化する。光度変動曲線は光源のサイズや輝度分布に依存するため、マイクロレンズ光度変動からは降着円盤の構造を知ることができる。アインシュタインクロスでは、マイクロレンズ現象がすでに数回観測されている。 まず、光学的に厚い標準円盤と光学的に薄い移流優勢円盤それぞれのモデルをたてて、それらのマイクロレンズ光度曲線を計算し、後者では色変化がほとんどなく、ブラックホールごく近傍からの放射がそのまわりからの放射を圧倒することを示した。 しかしながら移流優勢流モデルは、比較的低光度のAGNについてしか適用できないため、明るいクェーサーの観測スペクトルを再現するような降着流・コロナモデルを構築し、マイクロレンズ光度変化を計算した。その結果、軟X線と硬X線のふるまいに大きな差が期待できること、その差を捉えることが輻射機構の特定に本質であること、それにより降着流のブラックホールのごく近傍(半径数天文単位)の放射特性が明らかにされること等を、新しく見いだした。またマイクロレンズ光度曲線から逆問題を解いて円盤の輝度分布を求める方法の開発なども行った。
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