研究概要 |
観測データの解析は、ケック望遠鏡高分散分光器(HIRES)によって得られた3重QSO系Q1623+269の3つのQSOスペクトルにおける、水素ライマンアルファフォレストについて行った。吸収線輪郭フイッティングにより、柱密度(N(H))、ドップラーパラメーター(b)、赤方偏移(z)を測定した。このデータについて、まずN(H)-zの関係を調べた。その結果、本データより低分散スペクトル解析において示されたz=2.08,2.38付近における水素吸収線分布の凹みがわれわれのデータにおいても見られた。また、我々のデータにおいては新たにz=2.22付近にも凹みが検出された。このことより3つのQSOの視線間距離(約1Mpc程度)程度のスケールで、銀河間水素雲の分布は密度の大きいものと小さいものではその分布領域に差があり、水素ガスの濃いところと薄いボイド領域の存在を示唆していよう。N(H)-bの関係については、b>150km/sのものが観測されたが、これは理論的な推定と矛盾しない結果であり、水素雲のモデルに制限を与えるものである。今後は、相関なども調べる。また、金属吸収線系についても測定する。 理論的研究は、CDMモデルにおける3次元動力学的シミュレーションを用いて、銀河風モデルに基づく銀河間物質の金属富裕化を調べた。その結果、銀河間物質のz=3における金属度(z)は、体積比で12%の銀河間物質しか太陽値の100分の1以上のzをもち得ず、さらに、銀河間物質の無い(あるいは薄い)ボイド領域は金属が存在しないことが判明した。この結果は、これまでの観測とは矛盾しない。また、金属として炭素イオンの分布を調べたが、この分布は、必ずでは無いが、ほぼ銀河の形成される領域と一致していることが示された。さらに、このような領域には周囲の金属度の低い銀河間物質が流れ込み、金属度を薄める作用をすることも示唆された。これらの推定は今後、観測データと付き合わせて、モデルへの制限を得る。
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