低次元空間にはその位相的性質の特殊性に起因する不可思議な現象が存在する。具体的に量子ホール系を考察することにより、低次元空間特有の豊富な物理現象を場の理論的に解析した。その為に複合ボソン理論を提唱し共形場理論の手法を用いた。 次の2点が特に重要である。(i)2次元物理系では粒子の統計は任意に変換できる。事実、量子ホール状態は電子と磁束量子が結合してボソン化した複合粒子の凝縮状態とみなせる。(ii)量子ホール状態はランダウ準位に束縛された電子の作る状態であるが、この束縛によって電子のx座標とy座標は交換しなくなる。これは非可換幾何学の最も簡単な具体例である。この2点から色々な低次元空間特有の現象が帰結される。例えば、電気的励起としてスピンSU(2)対称性の自発的破れに伴う位相的励起(スカーミオン)が現れる。また、量子ホール系の周辺部はカイラル朝永ラッティンジャー液体となる。 2層量子ホール系で、電子はスピンと2層の自由度を合わせたSU(4)の内部対称性をもつ。クーロン交換相互作用の結果、SU(4)対称性の自発的破れに伴う巨視的コヒーレンスが発生する事を論証し、併せてSU(4)コヒーレンスの実験的検証方法を研究した。先ず、SU(4)アイソスピン波は2層間のプラズモン励起として測定される。次に、SU(4)スカーミオンは活性化エネルギーの測定で検証できる。 理論的成果を検証するための実験を計画した。2層量子ホール系での活性化エネルギーの測定を東北大学理学部超低温研究施設およびNTT基礎研究所の共同研究者が行った。その観測結果をSU(4)コヒーレンスの発生に基づいて説明した。 研究成果は国際的に著名な専門誌に多数発表し、又、多くの国際会議で講演した。2000年アメリカ物理学会で招待講演を行った事を特記する。更に、本科研費による研究成果を中心に532ページの大著を出版した。
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