研究概要 |
本研究は格子上の量子色力学の大規模数値シミュレーションによって、ハドロン相からクォークグルオンプラズマ相への相転移の性質並びに高温相の物理的特徴の解明を行うことを目標としたものである。計画初年度には、相転移自身の性質についての研究を実施し、続いて2年目・3年目には高温相に関する基礎的情報である状態方程式の計算を行った。その結果得られた成果は以下のとおりである。 1.現実の有限温度相転移の性質を知る上でup,downクォークの質量m_<ud>とstrangeクォークの質量m_sが異なることによる影響を知ることは非常に重要である。Kogut-Susskindクォーク作用を用いて(m_<ud>,m_s)平面上での相転移の同定を系統的に行い、一次転移が消える臨界クォーク質量を評価した。さらm_<ud>とm_sが等しいSU(3)対称な場合について、詳細な解析を行い、一次転移が消失する点は二次転移となっており、さらにそこではフレーバー一重項のσ粒子が質量ゼロとなることを示した。 2.状態方程式については従来専らKogut-Susskind作用が用いられてきた。本研究ではスピン・フレーバーについて遥かに自然な定式化であるWilson型作用を用いてフレーバー数2の場合の計算を行った。この計算は動的クォークを含むため計算量が膨大であるので、グルオン場・クォーク場共に改善された作用を用い、計算法としては積分法を用いた。準備のために純グルオン理論での状態方程式決定を行い、エネルギー・圧力を温度の関数として求めて連続極限を取り、従来の標準作用により得られていた結果と約3%の精度で一致する結果を得た。クォークを含む場合について積分法を用いるため、(K,β)面での相図解析を行ってカイラル極限とパリティ破れ相を同定した。この後時間方向格子点数N_t=4と6の場合について主として空間サイズ16^3の格子を用いたシミュレーションを行い、m_π/m_ρ=0.6-0.95に対応するクォーク質量領域で、圧力及びエネルギー密度を温度の関数として決定して。この結果に見られる主要な特徴は、(1)クォーク質量がm_π/m_ρ=0.9よりも軽くなるとクォーク質量依存性は殆ど見られないこと、(2)N_t=6の結果はT/T_c=2以上では連続理論のStefan-Boltzmann極限にほぼ一致することであり、今後より大きな時間サイズを用いてスケーリングの破れの解析を行うことが重要である。
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