ペストフ飛行時間測定器の問題点として知られる数100psの広がりをもつ2重構造の時間分布を理解するために独自にカスケード放電模型を作成した。電子なだれ発展過程においては統計的な時間の揺らぎは高々10ps程度であり主因とは考えられない。しかしながら、初期電子数の統計的揺らぎの効果は重要であること、時間分布の第一成分の幅は主に初期電子発生位置の揺らぎによること、初期電子の発生位置の違いが、第2成分の強度に影響を与えること、また、初期電子数の増加に伴いカウンター分解能は向上するが、第2成分の強度も増加することがわかった。さらに、紫外光を入れることによって時間分布に典型的な2重構造が現れた。カスケード放電模型計算から、ギャップ長を拡げることは電子なだれの速度が有限であるために時間分解能の低下を招くが、一方で、ギャップ長を狭めると、吸収が行われない領域の割合が増えるために第2成分が増加することがわかった。このために、短ギャップで紫外光の効率の良い吸収が必要であることが認識された。 次に、実際にペストフ・スパークカウンターを製作し、経年変化・経時変化に特に着目したテストを行った。期待された良好な時間分解能は得られたものの、時間分布の2重構造や検出効率の経時変化が観測された。 これは、電極陰極へのポリマーの形成が第1要因であると考えられる。ポリマーは紫外光の吸収測定からクエンチャーガスとして使用した混合ガスの吸収領域と陰極物質として使用したアルミニウムの仕事関数の丁度間隙の波長帯に相当しているために、放電の成長そのものに大きな影響を与えたものであろう。陰極への付着を防ぎ、かつ付着物の影響を最小に留めることが現時点で考えられる最善の策と思われる。これらの問題の解決策として、(1)仕事関数の高い陰極物質の使用、(2)エチレン、イソプレン以外のガスの使用、(3)陰極の高温化、を提案する。
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