研究概要 |
1.以前,我々は可換射影の方法を用いて量子色力学の低エネルギー有効理論を構築した。この理論は可換ゲージ理論でありながら結合定数が漸近自由性を保持しているという極めて著しい特徴を持つ。これを用いることで,クォーク閉じ込めの新しい判定基準を導いた。その結果,量子色力学には臨界結合定数が存在して,それより上では閉じ込めが起こり,下では閉じ込めが起こらないことが判明した。この結果はカイラル対称性の自発的破れの判定基準と極めて類似している。この基準を最近議論されているフレーバーが多い場合の量子色力学に適用し,漸近自由性を保つ非閉じ込め領域,つまり,共形相の存在を示した。得られた相図は他の方法を用いて得られたもの,特に,格子ゲージ理論のシュミレーションで得られたものと定性的には一致している。 2.非可換ストークスの定理のひとつの形を導いた。これによって,非可換のウイルソン・ループを可換ゲージ場の面積積分に書き換えることができ,可換ウイルソン・ループの平均として書き換えることが可能になる。これを可換射影された有効ゲージ理論と併用することで,クォーク閉じ込めにおいて可換成分が支配的な役割を果たすこと(アーベリアン・ドミナンス)を説明できる。さらに,モノポールを記述する'tHooft-PolyakovテンソルをSU(N)のゲージ群の場合に拡張したものが,ウイルソン・ループの非可換ストークスの定理を通した表現に自然に現れることがわかった。これは,クォーク閉じ込めにおいてモノポールが重要な役割を果たすことを示唆する。
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