平成8年4月よりスーパーカミオカンデ実験が開始し、太陽ニュートリノの線束とエネルギー分布の精密観測を行なっている。本研究は、6.5メガ電子ボルト(MeV)以下の低エネルギー側分布の詳細な解析からニュートリノ振動を確定することを目的としている。本年度は、観測装置内の放射性元素のバックグラウンド(BG)の特性の研究と、ノイズによるBGの除去を行なった。まず、流入純水中のラドン(Rn)量を高感度ラドン検出器により測定した結果、1.4mBq/m^3以下であった。また、事象の場所分布を見ると、装置の中心から-5mより下の領域にそれ以外の領域の約4倍の濃度のBGが存在していた。これは、純水を装置の下部から供給していることに起因していると考えられた。そこで、純水の供給を休止し事象数の変化を見ると、Rnの半減期と正確に重なり、このBGはRnであることが確認された。但し、観測量は約4mBq/m^3であり、流入水中のRnでは説明ができない。そこで、装置内の温度分布を精密に測定し、Rnの発生源について検討を行なっている。しかし、RnによるBGは5MeV付近ではデータの約20%程度である一方、太陽ニュートリノの信号が約5%以下と期待されることから、Rn以外の多量のBGが存在していることになる。残存するBGの研究を詳細に行なった結果、多くのBGが複数の独立した事象、または少なくとも一つの電気ノイズが偶然に重なったノイズと考えられ、これを除去する有効な解析方法の確立が得られた。このノイズには、事象の発生点の確からしさ(goodness)が低く、更に発生点を中心にその周りの場所に置けるgoodnessが同程度である特性がある。これによりデータの約50%のノイズBGを除去することに成功した。シミュレーションや電子発生装置による電子事象から、太陽ニュートリノ自身の損失は約10%以下と評価された。これから、平成9年5月からのデータを再解析しエネルギー分布を測定した結果、太陽標準模型の予想値に対し、5.5-6.0MeVで0.48倍、6.0-6.5MeVで0.43倍という結果が得られた。
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