太陽ニュートリノ問題を解決すると期待されているニュートリノ振動を確定するためには、6.5メガ電子ボルト以下の領域の太陽ニュートリノのエネルギー分布を観測する必要がある。しかし、大量のバックグラウンドが存在するため、これらを効率良く除去しなければならない。そこで、観測装置内の放射性元素によるバックグラウンドの特性研究を行なった。流入純粋中の^<222>Rn量を高感度ラドン検出器により測定した結果、1.4mBq/m^3以下と得られた。一方、観測装置内のバックグラウンドで^<222>Rnである思われる事象から得た観測量は約4mBq/m^3であり、流入水中のRnでは説明ができない。そこで、^<222>Rnの娘核の^<214>Biとトリウム系列の^<208>Tlの崩壊をシミュレーションした結果、流入純水には^<208>Tlの崩壊事象が約50%を占めていることわかった。この結果を元に、現在純水製造装置の改良を行なっている。一方、放射性元素以外に残存するバックグランドの特性研究も行なった。これらの多くは複数の独立した事象が偶然に重なったノイズであると考えられた。この事象の発生点の確からしさ(goodness)は物理事象に比べて低く、更に発生点の周りに置けるgoodnessも同程度である特性がある。この特性を使ってこの事象を除去するソフトウェアを開発し、放射性元素以外の事象のほぼ全ての事象を除去することに成功した。電子発生装置による電子事象から、太陽ニュートリノ事象の損失は約10%以下であり、また系統誤差は2%と抑えられた。現在、平成9年5月から平成11年10月までデータを解析中であり最終結果は得られなかったが、低エネルギー領域の太陽ニュートリノのエネルギー分布は太陽標準模型の予想値に対し5.5-6.0MeVで0.48倍および6.0-6.5MeVでもに0.43倍との予備的結果を得ている。この結果から、統計的に弱い議論ではあるが、ニュートリノ振動の許容解で、混合角の小さい領域はこの観測値と合わない可能性があるという結果を得た。これは、低エネルギー側のエネルギー分布がニュートリノ振動に対して制限を加えた最初の研究であり、今後更に5MeVまで解析が可能になれば、確定的な議論ができるものと期待される。
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