ブラックホールとは、遠方にいる観測者にいかなる信号も送ることができない時空領域を意味し、ブランクホールと外部時空の境界を事象の地平線という。しかし、ブラックホール時空でのスカラー場や電磁場の量子論から、ブランクホールがその質量に逆比例する温度の輻射(ホーキング輻射)を出していることが導かれる。 ホーキング輻射は、地平線近傍から放出されるため、遠方の観測者に到達するためには非常に深い重力ポテンシャルを遡らなければならない。従って、遠方で通常にエネルギースケールに対応する波長の輻射は、地平線近傍ではプランクスケールを越えてしまうことがある。言い換えると、ホーキング輻射を観測することにより、プランクスケール近傍あるいはそれを越えるエネルギー領域での物理を探ることができるのである。 本研究では、スカラー場のラグランジャンにプランクスケールで大きな影響を与える高階微分項を導入し、それがホーキング輻射に与える効果を研究した。具体的には、事象の地平線の内部で減衰するという境界条件で地平線近傍での波動関数の積分表示をつくり、それを地平線の外部に解析接続し、さらにWKB近似で得られる解と接続することで、遠方で観測される輻射のスペクトルを計算した。短波長側での輻射のスペクトルのプランク分布からのずれは、数値計算の結果と定性的に一致した。また、プランク分布からのずれは、地平線近傍での波動関数の引き延ばしに対する高階微分項の影響として理解できること、その際、繰り込み群の手法が有効であることを示した。さらに、このモデルでのホーキング輻射とプラズマ物理でのモード変換の関連について議論した。
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