ブラックホールとは、遠方にいる観測者にいかなる信号も送ることができない時空領域を意味し、ブラックホールと外部時空の境界を事象の地平線(horizon)という。しかし、ブラックホール時空でのスカラー場や電磁場の量子論から、ブラックホールがその質量に逆比例する温度の輻射(ホーキング輻射)を出していることが導かれる。 Hawking輻射が存在すること、さらにそれがPlanck分布という熱的な性質をもつことにhorizonが本質的に重要な役割を果たす。具体的には、horizonの効果はhorizon近傍での引き延ばしということばに集約される。このようなhorizonの役割に注目して、時空を流体に、光を音波に置き換えて考えてみよう。観測者がいる上流から下流に向かって流れが加速され、ある場所で流速が音速を超えたとする。このsonic pointの下流側で出された音波は流れを遡ることができないので観測者に到達できない。従って流速が音速を超える点は音波に対する(sonic)horizonの役割を果たしていて、ブラックホールでのHawking輻射をシミュレートできると考えられる。本研究ではLaval Nozzleを用いてsonic horizonのある流れの具体例をつくり、さらに音波、正確には速度ポテンシャルの摂動がブラックホール時空でのスカラー場の方程式と等価な波動方程式をみたし、量子化によってHawking輻射に対応するPlanck分布に従う粒子生成を引き起こすことを示した。 しかしながら、この粒子生成はsonic horizonに起因する真空の変化で引き起こされる量子場の理論特有の現象である。そのため、流体全体にわたって量子コヒーレンスが保たれていなければなりない。この点が実際に流体を用いてHawking輻射を観測する実験を行うときの大きな障害になる。そこで本研究ではsonic horizon近傍から、流れに逆らって伝搬してくる古典的な波を上流で観測した場合、量子論での粒子数の役割を古典的な波のPower Spectrumが果たし、それがPlanck分布に従うことを示した。
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