ブラックホールとは、遠方にいる観測者にいかなる信号も送ることができない時空領域である。このような時空は、無限遠方の観測者と因果関係のないブラックホール領域と無限遠方と因果関係のある外部領域に分けられる。この2つの領域の境界は事象の地平線(horizon)とよばれている。 ところが、この"何も放出しない"という古典的なブラックホール描像は量子論を考えることによって大きく変わってしまう。ブラックホールが形成される前後での真空の変化に起因する粒子生成のため、ブラックホールはPlanck分布に従う輻射を放出し蒸発するという驚くべき結果がHawkingにより示された。この輻射は彼にちなんでHawking輻射と呼ばれ、ブラックホールの引き起こす最も興味深い現象の1つと認識されている。 このHawking輻射に注目したのが本研究である。まず、この輻射はhorizon近傍から出てくるため、非常に深い重力ポテンシャルを上って来なければならない。この事実は、Hawking輻射を用いてPlanck scaleでの物理を探ることができる可能性を示唆している。本研究では、その手始めとして、スカラー場の方程式に高階微分項を導入し、それが輻射のspectrumに与える影響を調べた。次に、Hawking輻射におけるhorizonの果たす重要性に焦点をあて、同様の現象が流体でも起こり得ることを示した。この場合、流体の速度は音速を超える場所(sonic point)がhorizonに対応する。さらにこの研究では、実験室でより観測しやすい、Hawking輻射の古典的な対応物の議論を行った。また、揺動散逸定理の観点から、輻射による散逸に対応するノイズが存在すること。それが、horizonをゆらがせるという、従来とは異なるブラックホール時空観を提唱した。
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