研究概要 |
近年、量子ホール効果の研究を通して物性物理におけるゲージ場の役割、およびその背景にあるゲージ原理の重要性が広く認識されるようになった。実際、素粒子物理において考案されたスキルミオンのようなトポロジカルな励起が現実に2次元ホール電子系で観測されていることに見るように、低次元電子系はゲージ理論の実用の場としての様相を呈している。このような現状を踏まえながら,平成12年度には量子ホール効果の根幹に関わる諸問題をゲージ理論の考え方と手法を用いて研究した。その内容は以下の通りである. 1.整数量子ホール効果の消失現象:量子ホール効果の消失現象が試料内部におけるホール電場と不純物の競合という基礎機構により説明できることを前年度に検証した。引き続き今年度は、ホール伝導率と縦方向伝導率プラトーに対する温度の効果について理論的、および数値的な考察を進めた。現在、論文を準備している。 2.分数量子ホール効果の研究:ホール電子系の電磁的な構造はW_∞ゲージ理論という普遍的な枠組に集約できることを以前に指摘した。この理論と(2+1)次元におけるボゾン化の手法を組み合わせて、分数量子ホール状態(および、それに付随する準粒子)のマクロな電磁的特性を忠実に表す実効ベクトル場理論を構成した。その結果、分数量子ホール効果に固有な長波長領域における普遍性や複合フェルミオンの描像をより明確にすることができた。論文は既に完成し、現在投稿中である。
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