研究概要 |
近年、量子ホール効果の研究を通して物性物理におけるゲージ場の役割の重要性が広く認識されるようになった。実際、スキルミオンのようなトポロジカルな励起が現実に2次元ホール電子系で観測されていることに見るように、低次元電子系はゲージ理論の実用の場となっている。このような状況を踏まえながら,平成10年から13年の4年度にわたり、量子ホール効果を中心に低次元電子系に特有な諸現象をゲージ理論の考え方と手法を用いて研究した。その内容は以下の通りである. 1.ホール電流分布:ホール電流分布を理論的に特定することは、量子ホール効果の基盤に関わる重要な課題である。これに関して、局在が原因となってホール電流のかなりの部分が系の端を流れるようになるという考えを以前に提唱した。今研究期間の初めには計算機を用いた数値実験を行ない、この端ホール電流の描像を検証した。 2.量子ホール効果の消失:上記の数値実験を通して、ホール電場は試料中の電子の局在を解くように作用するという事実から「量子ホール効果の消失」に関する実験結果が説明できることに気づいた。そこで、新たな数値実験を実施し、細部にわたる検討と微視的な機構の解明を試みた。 3.分数量子ホール効果の研究:W_∞ゲージ理論の枠組と汎関数ボゾン化の手法を組み合わせて、量子ホール状態の電磁的特性を忠実に表す実効ゲージ理論を構成し、分数量子ホール効果に固有な長波長領域における普遍性や複合フェルミオンの描像を考察した。この理論の特徴は、量子ホール状態が非圧縮性状態であるという特質に着目して、通常のChern-Simons理論とは独立した論理で分数量子ホール効果の実効理論を構成する点にある。今最終年度にはこの理論を二層量子ホール系へ適用し、その真価を確認した。 4.上述の研究についてはオタワとプラハで開催された2次元電子系の国際会議にてその成果を報告した。
|