高角運動量を有する有限温度の原子核には減衰性回転運動という特徴ある現象が見いだされるが、我々は、その原因が励起エネルギーの増大とともに進展する励起準位波動関数の複雑化にあることに着目し、本研究において両者の間の関係を理論的に解明しようとした。 高励起原子核の量子カオス性を特徴づける動的な指標として、複合核状態を形成するのに必要な時間スケールと、複合核状態のエネルギー分散幅に着目した。減衰性回転運動に伴う準連続ガンマ線のエネルギー相関スペクトルには二重構造が存在することが我々の理論模型で予言される。二重構造は、ガンマ線強度分布に顕著な微細構造が存在することを反映したものであり、また、その微細構造は、複合核状態のエネルギー分散幅によって特徴づけられることを解明した。これは、準連続ガンマ線のエネルギー相関スペクトルを通して複合核状態分散幅を測定する可能性を初めて開くものである。本研究ではまた、減衰性回転運動の総合的理解を目指し、質量数依存性などに関する理論的予想や、最近の実験結果の分析なども行なった。さらに、微細構造や大きな揺らぎを有する強度関数を分析する一般的方法を開発した。そのために局所スケーリング次元という新しい概念を導入し、その有効性を幾つかの例で確認した。
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