研究概要 |
原子核は陽子と中性子から成る有限量子多体系であり、それぞれの核子が全体として作る自己無撞着平均場の運動としての集団運動とその平均場中の核子の独立粒子運動の絡み合いによっていろいろな現象が生じる。特に最近になって実験的に観測されているのは、大きな角運動量を持った高スピン・高励起状態における変形・回転の自由度に関する「相転移」や「異相共存」現象である。本研究ではいくつかの領域の原子核において特徴的な異相共存現象を調べた。 第一は大きな変形をもつ超変形状態についてである。現在では、A【approximately equal】60,80,130,150,190と種々の領域で超変形回転バンドが観測されているが、変形に対するエネルギー面はそれぞれでかなり異なっており、超変形状態と通常変形状態との共存のメカニズムに差異をもたらすことがわかった。また、これら二つの「相」の間の相互作用・混合についてもそれぞれの領域でかなり異なり、その混合効果は低スピンの超変形回転バンドの崩壊だけでなく、高スピンでの超変形状態の生成に対しても重要な役割を果たすこ 第二に調べたのは、回転について角運動量の大きさだけでなく、その変形場に対する方向の自由度が重要な役割を果たすことである。特に、現実的な計算により大きなK量子数(角運動量の対称軸成分)をもつ回転バンドではこの回転軸が傾く効果が電磁遷移などの観測量にかなり一般的に現れることがわかった。他方、高スピン状態では回転軸が最大の慣性能率をもつ変形主軸に一致する通常の回転バンドも同じエネルギー領域に存在しており、回転軸の角度の自由度に関する異相共存現象になっている。しかしながら、この角度方向についてのエネルギー面はかなり浅く、これら二つの「相」の間の相互作用・混合についてその零点振動の影響がどのように現れるかについては引き続き検討を要する。
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