(1)反クォーク分布のフレーバー非対称性 Gottfried総和則の破れとu^^--d^^-分布が生ずる物理的メカニズムについてこれまで発表された理論と実験の結果をまとめた論文を書き、Physics Reportsに発表した。次に、非偏極分布で用いられる代表的な模型である中間子雲模型を用いて、偏極反クォーク分布におけるフレーバー非対称性を検討し、u^^-クォーク分布Δu^^-よりもd^^-クォーク分布Δd^^-の方が大きくなることを明らかにした。 (2)偏極陽子・重陽子Drell-Yan過程の記述と重陽子のスピン構造関数 エルミート共役、パリティー保存、時間反転に対する普遍性を利用して一般的なスピン1/2・スピン1ハドロンのDrell-Yan過程の定式化を行ない、陽子・陽子反応と比較して多数の構造関数が存在することを見出した。ここで、陽子・陽子反応の場合には存在しない新しい構造関数はスピン1ハドロンのテンソル構造に関係することを明示した。次に、パートン模型を用いて解析することで構造関数がどの偏極パートン分布に関係しているかを明らかにした。この定式化を用いて、その断面積と偏極反クォーク分布のフレーバー非対称性との関係を調べ、偏極陽子・重陽子と偏極陽子・陽子反応の断面積の差がΔu^^-とΔd^^-分布の違いを測定するために利用できることを明示した。 (3)核子と原子核内の最適偏極パートン分布 核子のスピン構造を解明するために、現存する陽子、重陽子と^3Heのg1に閧する実験結果を解析し、最適偏極パートン分布を提案した。Q^2=1 GeV^2において偏極パートン分布を14個のパラメータで表現しておき、その偏極パートン分布を用いてスピン非対称性A_1を計算しX^2を最小にするようにパラメータの値を決定した。この様にして最適偏極パートン分布を求めることにより、グルーオンの偏極は大きい正の値であり、海クォークの偏極は小さい負の値であることを示した。ここで得られたパートン分布の信頼性、つまり誤差について研究し、偏極グルーオン分布や反クォーク分布が確定できないことを示した。次に、原子核のF_2構造関数の実験値を用いて原子核内パートン分布の最適化を行った。核子内分布からの変化をパラメータを用いて表現し、これらのパラメータ値をX^2解析により決定した。中間x領域での価クォーク分布は定まったが、小さいx領域で不定性があり、逆に反クォーク分布は小さいx領域で決定できたが、中間x領域で決定できなかった。グルーオン分布については全てのx領域で決定が困難であった。
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