この研究の目的は、超弦理論の非摂動的な定式化、特に行列を使った行列模型と呼ばれる模型の解析を、素粒子論のみならず物性論などで使われている手法を駆使して行ない、我々の世界の基本的な性質を導くことであった。始めの2年間は、主にこの行列模型からどうやったら時空の性質が導かれるのかを考察した。この模型では、行列の対角成分が時空の座標を記述すると考えられるので、非対角成分を積分した結果得られる(対角成分に対する)有効作用を解析して、時空がダイナミカルにどうやって生成できるのかを調べられる。摂動計算の1ループで解析した結果、時空の構造がブランチポリマーと呼ばれる統計系によって支配されていることがわかった。この系は4次元のフラクタル構造をもっていて、我々の時空の4次元性と密接に関係していることが示唆される。その後の数値計算により、この模型から4次元的な性質がでる可能性が次々と指摘されている。後半の2年間は、この模型の背後にある時空の不確定性についての研究を行なった。重力の量子化を追求していった時、必然的にプランク長さ以下での時空の構造の問題につきあたる。この研究では、行列模型の時空の性質が、それまで数学者などにより提案されてきた非可換幾何学と密接な関係があることを明らかにした。この結果、実際にこの模型に重力が含まれていることが自然となり統一理論としての正しい方向を歩んでいることが示せた。また重力を記述するには不可欠の背景場非依存性と呼ばれる性質が不可欠であるが、この性質が現在の行列模型には明白に見えない。そこで私は行列模型を様々な形に書きかえて、より重力としての性質があらわになるようないくつかの模型を提案した。研究はまだ継続中であり超弦理論の今後の発展へと結び付けたい。
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