本研究の目的は、われわれがこれまで開発してきた透過型高分解能電子エネルギー損失(EELS)電子顕微鏡の空間分解能の向上および検出効率の向上により、カーボンナノチューブや最近出されたBNナノチューブ先端、さらには最近見出されたC60ポリマーの電子状態を明らかにすることである。本年度は、以下の(1)-(3)の成果が得られた。 (1)試験的に製作した約1μmΦの絞りを高分解能EELS電子顕微鏡(現有設備)の一部を改造して装着したことにより、昨年度(110nmΦ)よりもさらに高い空間分解能35nmΦを実現した。 (2)空間分解能の向上した装置を用い、カーボンナノチューブ先端からのスペストル測定を行った。 ・先端部分の伝導帯状態密度分布が、グラファイトシートと異なることが明らかになった。測定した状態密度分布は、 ・グラファイトシートよりも C60やC70等の籠状分子の状態密度分布に似ていることが明らかになった、これは、チューブ先端を閉じている半球状もしくは多面体のキャップの特徴的な電子状態に起因すると考えられる。 (3)装置の高い空間分解能を生かし、大きな単結晶の得られないC60フラレンホリマー(ダイマー、一次元ホリマー、2次元ポリマー)の単結晶領域からのスペクトル測定に初めて成功した。その結果、 ・バンドギャップがC60より0.1-0.3eV小さい ・バンド間遷移の強度分布がC60よりブロード 以上の特徴は、ポリマー化に伴うC60分子の変形の結果として説明できることが分かった。すなはち、C60ポリマーの電子構造の特徴は、ポリマー化に伴うπ結合→σ結合の変化よりもC60分子の変形が引き起こしている事が明らかになった。
|