本研究によって得られた成果を以下に示す。 1.CdS結晶に最大70ボルトまでの8MHzの電圧を印加して音響波を発生させ、I_1束縛励起子による発光強度の時間減衰を測定した。その結果、1200V/cmまでの電場を印加すると発光の減衰時間は1.2ナノ秒から少しだけ増加し、この電場以上になると再び減少し始め、1600V/cmで1.05ナノ秒になる。低電場での寿命の増加は電子と正孔の波動関数の重なりが音響波によるピエゾ電場のために減少することによると考えた。高電場下での寿命の減少は不純物中心の励起子に対するポテンシャル幅の拡がりによると説明できる。更にI_1発光線の音響波ウイングの増大や吸収端の低エネルギー側への移動、A_1モードのラマン線の消失等が観測され、これらの現象は音響波伝播による局所場への非一様電場の効果によるとして説明できる。 2.ZnSをバリアー層としたZnSeに音響波を加えると、ZnSe量子井戸中の励起子による発光強度の時間応答曲線で短い寿命成分が現れ、その寿命は30%程度減少することを見出した。5層、7層の量子井戸で同様な現象が見られるが、3層の量子井戸ではその効果が少ない。5層の量子井戸において4eVの光励起の場合、発光強度は音響波を強くしてゆくと徐々に減少し、ある音響波強度になると急に減少して半分以下になる。しかし3.5eVの光強度の場合には減少がみられない。 これらの結果を踏まえると、次のようなプロセスが推定される。 発光強度の音響波による減少は自由励起子の電場によるイオン化が起こっており、このことは励起子の半径、結合エネルギー、音響波による電場から定量的に証明することができる。また、音響波によって自由励起子は局在化するために自由励起子の寿命が減少する。その結果、発光の寿命も減少すると考えられる。
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