本研究の目的は、GaAs基板上へ族の異なるZnSeを成長させる場合などに生じる空孔化した界面構造層の形成機構と電子物性を解明することであり、本年度得られた知見は以下である。 1.ZnSe/GaAs(001)界面での空孔積層欠陥形成及びGaSe空孔層成長方位の解明:第一原理計算及び不整電荷移動と歪効果を取り入れたヘテロエピ成長のモンテカルロシミュレーションを行い、GaAs基板上へのZnSe成長におけるマクロ積層欠陥発生のメカニズム(アンチサイト・空孔ペアを基点にカチオン・アニオンオーダーの反転した積層欠陥が発生すること)及びGaSe界面層における空孔配列方位と基板の関係(歪みを緩和するためにGaSe層の空孔は[011]方向に配列しやすいこと)を明らかにした。特に、前者はAs過剰なc(4×4)基板上で顕著に見られることがわかり、実験結果をよく説明した。 2.SiO_2/Si(001)界面空孔構造形成と電子物性の解明;Siの極薄膜層状酸化におけるSiO_2/Si界面の原子構造及び電子状態を、第一原理に基づく界面からの反射率差スペクトル計算法を開発し明らかにした。特に、反射率差スペクトルが酸化時間と共に、(100)面では正負に、(110)面では2ピークが逆位相に振動することを実験に先駆けて予言した。また、スペクトル形状やその時間変化を実験結果と比較することから、界面から1原子層以上離れて始めて空孔サイト欠陥が発生することを示した。 3.Si(111)表面のClによるエッチングダイナミクスの解明:第一原理計算を用いて、エッチング後のSi表面に空孔サイトが発生する可能性を検討した。その結果、ClやSiClの表面拡散は1eV以下の障壁で容易に起こるので、これらが表面のモノクロライドと衝突してSiはSiCl_2の分子で解離する過程が主であり、この場合には空孔サイト発生は押さえられる等を明らかにした。
|