研究概要 |
カーボン・ナノチューブは,フラーレン分子の製造過程でNECの飯島により偶然に発見された半径ナノメートル程度の黒鉛の極微細管である.透過電子顕微鏡による詳細な観察の結果,カーボン・ナノチューブは,中心部分が空洞で2次元グラファイト面を丸めて得られる円筒状をしていることが明らかになった.また,長さは1μmと非常に長いものもあり,円筒は数枚のグラファイト面からなる.さらに,それぞれの円筒上では炭素の6員環が管の軸方向に螺旋状に配置しており,その螺旋のピッチも様々である.最近では1枚のグラファイト面からなるナノチューブも作られるようになった. カーボン・ナノチューブは天然に作られた擬1次元物質であるが,トポロジカルな違いと2次元グラファイト上で特異な電子の運動とために,半導体ヘテロ構造で人工的に作られた量子細線とは非常に異なっている.ナノチューブの特徴は,2次元グラファイトを連続体とみなし,有効質量近似で扱うことにより,はっきりする.すなわち,ナノチューブ上の電子の運動はニュートリノに対する2行2列のWeylの方程式で記述される.ただし,円筒を一周したときに波動関数はもとに戻るわけではなく,余分の位相がつく.この位相はナノチューブの螺旋構造により決まり,その結果ナノチューブが1次元金属になるか半導体になるのかが決まる.この研究では,有効質量近似と強束縛模型を併用し,ナノチューブが示す特徴的な量子輸送現象を理論的に明らかにすることである. 本年度はナノチューブの電子状態に対するポテンシャル散乱の効果を詳しく考察した.その結果,通常の散乱体のポテンシャルは行列の対角成分として表現されるがその場合,金属的なナノチューブでは散乱が全く生じないことを示した.これは金属的ナノチューブではフェルミ準位の広い範囲になりたつ状況である.現在,格子欠陥を含め散乱体の強度に対する依存性を有効質量近似と強束縛模型で考察している.さらに,炭素の環が通常の6員環からずれた5員環や7員環などのトポロジカルな欠陥がある場合に,有効質量近似の波動関数に対する境界条件を導出し,太さの異なるナノチューブ接合系のトポロジーとコンダクタンスの特徴を明らかにした.
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