研究概要 |
カーボンナノチューブは半径ナノメートル程度の2次元グラファイトを丸めて得られる天然の量子細線である.ナノチューブは,(1)通常の量子細線とはトポロジカルに異ること,(2)2次元グラファイト上で電子が自由電子とは非常に異なった運動をすること,のために非常に興味深い性質を示す.実際,2次元グラファイトを連続体とみなした有効質量近似では,電子の運動はニュートリノに対する2行2列のWeylの方程式で記述される.ただし,円筒を一周したときに波動関数にはナノチューブの螺旋構造により決まる余分の位相がつき,その結果ナノチューブが1次元金属になるか半導体になるのかが決まる.この研究の目的は,最近特に発展の著しい輸送現象に着目し,ナノチューブが示す特徴的な量子輸送現象を理論的に明らかにすることである. 本年度に行った研究は以下のようにまとめられる.[1]空格子点のように強い散乱体の場合には,その数や位置によりコンダクタンスが量子化されることが昨年度の研究でわかってきた.すなわち,A副格子とB副格子の空格子点の数の差がゼロの場合コンダクタンスが2e^2/πh,1個の場合にはe^2/πh,2個以上の場合にはコンダクタンスがゼロになる.本年度は,強束縛模型により数万という非常に沢山の種類の空格子点の場合にコンダクタンスを計算し,量子化の規則の普遍性を検証した.[2]この量子化規則の物理的な起源を明らかにする目的で,有効質量近似を空格子点のような強い散乱体の場合に拡張することを試みた.その結果,コンダクタンスの量子化の規則を解析的に導出することに成功し,2次元グラファイトの単位格子に含まれる二つの炭素原子上の強い散乱体の間の多重散乱により,散乱効果が消滅するためであることを明らかにした.
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