研究概要 |
今年度は主に2層系のbulk状態の研究を行なった.2層系はスピン縮重のある系とほとんど等価であるから,後者に関する現象も視野に入れての研究を行なった.先ず注目したのはこれらの系におけるスカーミオン励起の役割である.スカーミオン励起の存在が輸送現象に与える影響を明らかにするために,先ず孤立したスカーミオンの波動関数の研究を行った.従来は半古典的な取り扱いのみが行なわれてきたが,これは現実のスカーミオンに対しては良い近似とは言えない.これに対し,球面上の系での量子力学的な波動関数が解析的に表わせることを,数値対角化との比較によって明らかにした.次に,有限な密度でスカーミオンが存在し,互いに相互作用をしている場合の基底状態と励起スペクトルの研究に移行した.相互作用によってスカーミオンの結晶ができるというのが従来の理論であるが,これには疑問がある.本当の基底状態を知るために占有率1付近の比熱の実験における異常が鍵になると考えた.すなわち,スカーミオンを媒介とした核スピン間相互作用が異常をもたらすのではないかと考え,スカーミオンの波動関数を用いて核スピン間相互作用を計算した.相互作用の大きさはスカーミオン系の長波長励起の様子に敏感に依存する.このため,実験結果と主に平均場近似に基づく理論計算を比較することにより,スカーミオン系での長波長励起に対する情報を得ることができる.このことを用いてスカーミオン系の基底状態の妥当なモデルを構築する作業を現在実行中である.この結果の一部は1999年3月のアメリカ物理学会において発表する.
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