二酸化チタンの3種類の同質多形の中で、アナターゼは低温相に属するためこれまで単結晶育成は困難とされてきた。本研究により、化学輸送法によって様々な物理測定に十分な大きさの単結晶を得ることに成功した。As-grown結晶は薄青色透明で、これを酸素雰囲気中で熱処理することで黄色透明を経て、無色透明に変化すること、さらにこの結晶について水素還元処理を行うと薄青色(as-grownと同一)、濃紺色を経て黄色に戻ることを吸収スペクトルから確認した。これによって様々な結晶のスペクトルに対応する欠陥状態を制御する方法を確立出来た。なお、酸素処理によって出来た試料は鋭い吸収端をもち、ESR信号も無いことからほぼ完全結晶とみなせる。この結晶に(1)水素還元処理、(2)Hイオン注入、および(3)as-grown結晶はいずれも同じ吸収、ESRスペクトルを示した。角度分解ESRから欠陥はTiイオンにセンターを持つd電子(dxy軌道)であることが分かった。 Tiより1価多いV、Nbの異元素を含むアナターゼ型二酸化チタン単結晶を、(Ti:V)O_2、(Ti:Nb)O_2の固溶体を原料とする化学輸送法で育成することに成功した。V、Nbドープ単結晶はそれぞれ赤紫、濃紺色透明で、いずれも吸収端がundoped結晶に比べ、低エネルギーシフトしている。TiO_2:Nbはundoped単結晶を水素還元して得られた結晶に類似の吸収スペクトルを示し、欠陥の電子状態の類似性を示唆している。
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