半導体微細構造の光ルミネッセンスによる測定では、二つの励起子が結合した励起子分子や、励起子と電子または正孔が結合した荷電励起子が、ルミネッセンススペクトルのピークとして観測される。これらの励起子複合体は半導体微細構造の光学特性に影響を与えるが、それらの理論的な研究は、特に定量的な側面ではあまり進んでいるとは言えず、実験結果に誤った解釈を与える結果となっている。 本研究では、量子モンテカルロ法を用いた計算を行うことにより半導体微細構造中の励起子複合体の束縛エネルギーなどの特性を精密に求め、実験結果と定量的に比較することによりその性質を明らかにすることを目指している。 GaAs/AlGaAs量子井戸に対する計算では、励起子分子の束縛エネルギーは変分計算よりも大きな値が得られ、井戸幅100Å以上では縮退四光波混合の実験と良く一致する値が得られたが、実験で見られている井戸幅100Å以下での束縛エネルギーの急激な増大は再現できない。この不一致の原因を解明するために、GaAsとAlGaAsのヘテロ界面に必ず生じている界面凹凸をモデル化して取り入れた計算を行ったところ、100Å以下での束縛エネルギーの急激な増大が得られ、すべての井戸幅で縮退四光波混合の結果とよく一致する値が得られた。これらのことから、単純な試行関数を用いた変分計算では束縛エネルギーを過小評価していること、また井戸幅100Å以下では界面凹凸の影響により励起子分子が局在し、束縛エネルギーが増大していることがわかった。荷電励起子に関しては、井戸幅の大きな領域では電子と正孔の有効質量の差のために、正の荷電励起子の束縛エネルギーが負の荷電励起子の束縛エネルギーより大きいが、井戸幅の小さい領域で界面凹凸を考慮するとその逆転が起こることが分かった。
|