研究概要 |
最近,半導体量子構造における励起子分子や荷電励起子などの励起子複合体は,半導体量子構造の光学特性に強い影響を与える。それらの性質は、個々の量子構造ごとに異なるため、様々な構造における振る舞いを研究することは、基礎物性の観点からだけでなく、応用上も重要である。 今年度は,前年度に引き続き量子モンテカルロ法による計算を行い,半導体量子ドットおよびタイプII超格子における励起子複合体の束縛エネルギーを精密に求め、その性質を明らかにした。量子ドットでは、ドット半径が励起子半径よりも大きい「励起子閉じこめ」の領域と、ドット半径が励起子半径よりも小さい「電子・正孔個別閉じこめ」の領域に分けることが出来るが、それぞれの例として、CuClおよびGaAsドットの計算を行った。CuCl/NaClドットでは、ドット半径の減少とともにと束縛エネルギーは増大するが、バルクで束縛エネルギーの最も小さい負の荷電励起子の束縛エネルギーの上昇が最も激しく、励起子分子および正の荷電励起子よりも大きくなる場合があることが分かった。この現象は重心運動のドット内への閉じ込めによって説明する事が出来る。GaAs/AlGaAsドットでは、半径30Å付近で負の荷電励起子の束縛エネルギーが著しく上昇するとともに、励起子分子と正の荷電励起子の束縛エネルギーが負になることがわかった。この顕著な結果は、ドット内での電子と正孔の分布の不一致によるクーロンポテンシャルの効果によるものである。短周期のGaAs/AlAsタイプII超格子では電子と正孔の空間的な分離の効果により、荷電励起子の束縛エネルギーが励起子分子よりも大きくなり、またタイプI超格子と比較しても著しく大きいことがわかった。 以上のように、半導体量子構造における励起子複合体は、バルクでの結果からは容易に予想の出来ない、それぞれの構造に特有の振る舞いを示すことがわかった。
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