本研究では、様々な半導体低次元構造における励起子および励起子分子・荷電励起子などの「励起子複合体」の束縛エネルギーを、拡散モンテカルロ法によって有効質量近似の範囲内で精密に求めることにより、低次元構造における励起子複合体の性質を明らかにすることができた。得られた成果を構造ごとに簡単にまとめる。 1. GaAs/AlGaAsタイプI量子井戸 励起子分子の束縛エネルギーは、従来の計算値の2倍近くになること、また正の荷電励起子の束縛エネルギーは励起子分子よりも、負の荷電励起子の束縛エネルギーはさらに正の荷電励起子よりも小さいことがわかった。また井戸幅が小さい量子井戸においては、ヘテロ界面の凹凸による界面に平行な方向での局在により束縛エネルギーが増大していることが明らかになった。これらの結果は最近の実験結果と非常に良く一致している。 2. 量子ドット 励起子分子や荷電励起子の束縛エネルギーが負になったり、逆に著しく増大したりする場合があることを明らかにした。これは励起子を形成する電子と正孔のドットへの閉じこめの差のために、ドット内部に静電ポテンシャルが生じることによる。 3. GaAs/AlAsタイプII超格子 タイプIIの特徴である電子と正孔の空間分離のために励起子は双極子を形成している。励起子の間に生じる双極子間相互作用によって、励起子が成長方向に長く連なった「励起子高分子」とも呼べる状態が形成される可能性があることを指摘した。 4. 量子細線 量子細線における励起子複合体の性質は、量子井戸と量子ドットの中間的なものである。量子ドットと同様に、電子と正孔の閉じこめの差によって、束縛エネルギーが著しく増大する場合はあるが、クーロン反発がある場合には粒子間距離がいくらでも大きくなり得るので束縛エネルギーが負になることはない。
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