微視的、非経験的に求めた表面ー探針系の電子状態による解析理論と数値シミュレーションを基本として、個々の原子のスケールでのトンネル現象を解明することが、この研究の目的である。具体的には、局所密度近似DV-Xα-LCAOクラスター法を用いて、吸着分子・表面系の電子状態を非経験的に求める。最高占有準位HOMO付近の価電子状態を調べて、同じ吸着表面でも吸着サイトの差異による吸着分子の安定性に関する知見を得る。また、各々のエネルギー準位の電子状態の空間依存性を調べて、走査トンネル顕微鏡(STM)像などの実験結果と比較・議論する。 研究項目「シリコン表面上の有機分子の電子状態」では、ベンゼン環が5つ並んだペンタセン分子がSi(001)2×1表面に吸着すると、吸着サイトによって2つ目玉、3つ目玉などのSTM像が得られているが、我々は第一原理からの計算によってこれを示した。また、探針ー真空層ー有機分子ー下地の系において、STM電流はこの系の固有状態を経由してトンネルすることが理解できた。この成果は、J.Phys.Soc.Jpn.誌に印刷中である。 研究項目「フラーレン系の電子状態」では、6角形から成る亀の子格子のグラファイトの1個が5角形になると凸型の錐状になるが、このコランニュレンderivative分子の電子状態を求め、STM像をよく再現することを示した。この結果は論文として準備中である。なお、この系は、STM探針としての可能性もあるカーボンナノチューブの第一原理からの電子状態へのプロトタイプとして位置づけられる。 進行中の研究項目としては、Si(111)〓3×〓3-Ag表面とSi探針の系の電子状態から、いわゆるヘルマン・ファインマン力を求め、原子間力顕微鏡AFM像と比較・議論する「AFM系の電子状態」がある。この予備的結果は、昨秋東工大で開催された国際会議でポスター発表した。
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