微視的、非経験的に求めた表面-探針系の電子状態による解析理論と数値シミュレーションを基本として、個々の原子のスケールでのトンネル現象を解明することが、この研究の目的である。 研究項目「シリコン表面上の有機分子の電子状態」は一段落したので、この吸着表面研究のさらなる展開を目指して、下地の構造、電子状態についての知見をより豊かに得るために、今年度は次の研究項目に集中した。 研究項目「フラーレン系の電子状態」:6員環から成る亀甲格子のグラファイトの1、2、3…個が5員環になると凸型の錐状の曲率が次第に小さくなり、6個のときはカーボンナノチューブCNTになる。1個のときの成果は昨年度にJ.Phys.Soc.Jpn.誌に掲載されたが、今年度は2、3個のときの成果がSurf.Sci.誌に印刷中である。すなわち、2個のときのHOMO付近の価電子状態は、以前われわれが求めたSi(001)2×1表面上のC_<60>分子に酷似している。3個のときは、同様に、Si(111)7×7表面上のC_<60>分子に酷似している。 6個のときについては、現段階ではprimitiveな結果を得て、さらに研究続行中である。すなわち、CNTの電子状態についてこれまでなされた内外の研究は、zig-zag型、arm-chair型やカイラリティのある場合など多様であるが、これらは全て両端は「開いて」いる。われわれは、CNTをSTM探針として実用に役立てる立場から、5員環6個によって「閉じた」CNTの尖端近傍の電子状態を求める。zig-zag型の多層CNTで5員環を放射状に配置すると、そのHOMO付近の価電子状態は5員環付近のリング状の領域で電荷密度が高いので、最近、三重大学および早稲田大学で得られた電界放射顕微鏡FEM像を、よく再現する。
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