ヘキサデカン中のテリレン分子を試料として、均一スペクトル幅の温度依存性を、2Kから5Kの温度範囲で一つ一つの分子について測定した。得られた温度依存性は、温度のべき乗に比例する分子が大半を占める一方で、温度による幅の増加がほとんど見られない分子も見出された。一方、圧力による遷移周波数のシフトも一つ一つの分子について測定した。テリレンの吸収帯の短波長側では圧力によって遷移エネルギーが長波長側へシフトしたが、吸収帯の長波長側では短波長側へシフトする分子も観測された。この結果はテリレンの立体異性体の存在によって理解できた。 測定の精度をより高めるために、顕微鏡の対物レンズを用いて、共焦点配置の、単一分子蛍光の測定系を構築した。対物レンズを通して励起光を集光し、同じ対物レンズによって試料からの蛍光を集めた。対物レンズは液体ヘリウムクライオスタットの中に入れ、試料面からの距離と試料面内での位置、外部制御によって掃引できるようにした。この装置によって、高い効率で蛍光を集め、集光条件を精密に制御し、一つずつの分子を空間的に選択して測定を行なうことが可能となった。この測定装置を用いてヘキサデカン中のテリレン分子の単一分子スペクトルの測定を行なった。励起光の強度を変えたときの、それぞれの単一分子の蛍光の強度と蛍光線の幅の飽和特性を測定した。多数の分子に対する測定から、分子ごとに異なる飽和特性が測定された。これは、主に分子による配向の違いを反映していると考えられる。最も低い飽和強度を示す分子の測定結果から、対物レンズの集光系の、集光特性を評価した。蛍光線の中には、蛍光強度が突然変化するものもあり、遅い掃引においてもスペクトル拡散が観測できることが確かめられた。
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