パラターフェニル結晶中のペンタセン分子とヘキサデカンのシュポルスキーマトリックス中のテリレン分子を試料として、圧力による遷移周波数のシフトを、4.2Kにおいて一つ一つの分子について測定した。測定したスペクトル線は、圧力によって広がらず、圧力に対して線形のシフトを示した。ペンタセン分子の場合はそれぞれの分子が圧力に対してほぼ同じシフト量を示し、これから母体結晶の圧縮率が得られた。一方、ヘキサデカンの場合は、シュポルスキーマトリックスの不規則性を反映し、シフト量は各分子で大きく異なる値を示した。テリレンの吸収帯の短波長側では圧力によって遷移エネルギーが長波長側へシフトしたが、吸収帯の長波長側では短波長側へシフトする分子も観測された。この結果はテリレンの立体異性体の存在によって理解できた。一方、均一スペクトル幅の温度依存性を、2Kから5Kの温度範囲で一つ一つの分子について測定した。得られた温度依存性は、温度の1乗に比例する分子、温度の2乗に比例する分子の他に、温度による幅の増加がほとんど見られない分子も見出された。これは、各分子の周囲の環境がさまざまに異なっていることを示している。さらに、励起光の強度を変えたときの、それぞれの単一分子の蛍光の強度と蛍光線の幅の飽和特性を測定した。多数の分子に対する測定から、分子ごとに異なる飽和特性が測定された。これは、主に分子による配向の違いを反映していると考えられる。蛍光線の中には、蛍光強度が突然変化するものもあり、遅い掃引においてもスペクトル拡散が観測できることが確かめられた。
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