研究概要 |
化合物半導体ZnP_2は励起子の研究に最も適した物質の一つである。本研究ではZnP_2結晶におけるフォノン散乱による励起子の無輻射過程を探ることを目的として,光カロリメトリー分光(PCS)を実施する。PCSに用いる熱伝導型ヘリウムクライオスタットは,当初の予定より遅れて平成10年10月中旬に納品された。信号検出回路の組み込み及び調整を行い,12月中旬よりPCSの観測を開始した。予備測定の段階であるが,得られた結果は次の通りである。 我々の場合,波長可変チタンサファイアレーザーを用いてZnP_2励起子帯領域の共鳴励起を行う。レーザー波長を一重項1s励起子からバンドギャップ近傍まで掃引しながら試料の温度上昇を観測した。得られたPCSスペクトルは全領域で反射スペクトルとかなり良い対応を示す。即ち,反射ロスの少ない領域で温度の上昇量ΔTが大きく,ロスの多い領域でΔTが減少する。このことは,試料に吸収された光がほぼ等しい割合で熱に変換されることを意味する。しかし,n=1から4までの各励起子エネルギー位置では反射補正を施してもPCS信号の変化が残る。特に,最低励起子準位近傍の1.5652 eVから低エネルギーにかけて見られるΔTの急激な降下は反射率変化とは大きな差異を示す。このエネルギーは別の実験から得られている1s縦波励起子エネルギーE_Lと実験誤差内で一致する。従ってこのような振る舞いは,縦波励起子直下から熱発生が減少すること,すなわち励起子緩和において光学不活性な縦波励起子が重要な役割を担っていることを示唆する。 上記の研究成果は平成11年3月の日本物理学会年会で発表する。今後,励起子発光の励起スペクトルとの対応や三重項励起子に対するPCSスペクトルについて調べ,一部の結果を本年8月に開催されるルミネッセンス国際会議で発表する予定である。
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