アモルファス半導体における乱れの効果についての理論研究は、乱れを外部パラメーターと見なす観点からの研究がほとんどであった。しかし、乱れ(結合のゆらぎ)の度合は決して外部パラメーターではなく、電子・原子系の複雑な相互作用の結果、定まるものである。また、アモルファス半導体の光吸収スペクトルには、低エネルギー側に指数関数的な裾を引くUrbach則が現われる。この傾きの度合が半導体の種類に依らず、ほぼ同じ値であることは、何か普遍的なアモルファス構造というもの存在を示唆している。 そこで、アモルファス構造は電子・原子凝縮系の準安定状態である点に立ち戻って、アモルファス半導体の結合ゆらぎと電子状態との相関を理論的に計算し、乱れの度合を自己無撞着に定めることを目的に、シミュレーションを行った。今年度は第一段階として、電子状態がs-p混成軌道であることと、原子間隔の揺らぎをtransfer energyの乱れ(非対角 randomness)として取り入れたtight binding modelを用いて、100〜1000個ほどの原子から構成される系に対して、エネルギー状態密度と光吸収スペクトルをHamiltonianを対角化する方法で数値計算により求めた。光吸収スペクトルは、エネルギーバンド端にピークをもち、低エネルギー側にUrbach的な裾をひく。これらの良く知られた振る舞い以外に、価電子帯と伝導帯のそれぞれのバンドの中心附近にδ関数的なピークが現れ、乱れの増加とともに高くなっていくことが判明した。 以上の結果は"Theoretical Study of Electronic Structures and Optical Properties of Amorphous Semiconductors"として第18回アモルファス半導体国際会議(1999年8月アメリカユタ市)に論文投稿中である。また第2年度は、格子間隔の乱れを自己無同着に決めるシミュレーションを行う計画である。
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