アモルファス構造は電子・原子凝縮系の準安定状態である点に立ち戻り、アモルファス半導体の結合ゆらぎと電子状態との相関を理論的に計算することを目的として本研究は行われた。構造ゆらぎを規則挌子におけるゆらぎに置き換えたモデルを作り、以下の手順で理解解析を行なった。 原子のs軌道とp軌道との混成から共有結合ができるとの立場から、価電子帯と伝導帯の相関を考慮したtigh binding model を提案し、電子のトランスファー積分 t が隣接原子間の距離に比例するとの仮定を行い、ハミルトニアンを厳密に対角化することで、原子の位置が乱雑であるときの電子固有状態の波動関数とエネルギーを厳密に計算し、また光吸収スペクトルを求めた。その結果、以下のことが判明した。乱れの度合いが大きくなると、s-p 混成の度合いは減少し、共有結合の切り替えが生じる。バンドギャップはしだいに狭くなるが、隣接したトランスファー積分 t の相関を無視した場合に比べて減少の度合いは少ない。光吸収スペクトル特徴的なピークが出現し、それは隣接したトランスファー積分 t の相間によって生じる電子状態の局在化に対応している。これらの結果は、日本物理学会およびアメリカ材料学会(MRS)において口頭発表を行った。主要な結果はMRS Proc vol.588に論文として掲載予定である。また、詳しい結果はfull paperとして現在まとめているところである。 今後は、さらに、局所電子状態密度と各ボンドの強さから決まる原子に働く有効力を自己無撞着に定めることを行いたい。それによって、結合のゆらぎとダングリングボンドなどの欠陥とのあいだの定性的・定量的区別が明確になり、アモルファス構造の安定性を一段と深い立場で理解できるようになる。
|