研究概要 |
実験的に実際に得られる単層カーボンナノチューブ(以下SWNT)試料はSWNTが集合して束を形成したものである.これまで議論されてきた孤立SWNTの物性との違いを調べるため,束の影響について詳しく調べた.SWNT試料に臭素をドープしてその後真空排気すると,束の中にだけ臭素が残り,孤立SWNTからは臭素がとれてしまう.臭素が残った束の内部では臭素への電子移動に伴うフェルミエネルギーの降下により,主な光学許容遷移が消失し,近赤外における共鳴ラマンが観測されなくなる.一方,臭素のはがされた孤立SWNTでは通常の共鳴ラマンが観測される.この性質を利用して,孤立SWNTのみの共鳴ラマン散乱を選択的に測定することに成功した.その結果,金属相が共鳴する波長においてもFano型のline shapeが観測されなくなり,Fanoの干渉効果は金属SWNTが「束」になっている場合にだけ現れるものであることがわかった.これは,Fano型スペクトルに現れる低振動数モードが,チューブ間の相互作用と大きく関わっていることを示している.一方,試料を精製し純度を90%以上に上げると,溶媒残留下では自発的に非常に太い束が形成されていることがわかった.この精製試料のラマン散乱を測定すると,Breathing modeと呼ばれる低波数の振動モードの振動数が大きく高波数側へシフトすることがわかった.未精製の試料では,束と孤立SWNTが混在していることから,未精製の試料に見られる複雑な共鳴効果は,束と孤立SWNTそれぞれの共鳴効果の和として現れると考えるとうまく説明がつくことが明らかになった.この結果は,SWNT間のファンデルワールス相互作用に関する理論的計算の結果と矛盾が無く,これを実験的に確認したことになる.
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