分布を持った磁場下の整数量子ホール効果の温度依存性の測定を、温度範囲50mK〜4.2Kで、高移動度と低移動度の試料について行い、量子化ホール抵抗のプラトー間遷移領域の、スピンに依存する温度依存性を見いだした。磁場分布は、Bi系高温超伝導体の単結晶を、試料の上に貼り付けることによって作った。高移動度試料については、ランダウ量子数N=1のスピンダウンの準位で、スピン縮重したランダウ準位と類似の、温度の上昇にともなう高磁場側へのシフトが観察されたのに対して、スピンアップの準位では、磁場分布があるにも関わらず、分布を持たない通常の試料と同様の温度依存性が観察された。磁場を傾けてランダウ準位の分離に対してスピン分離を相対的に、大きくして、低移動度試料および高移動度試料についても温度依存性の測定を行った。その結果、低移動度試料でも量子数N=2のランダウ準位において、また高移動度試料では、低磁場で観察される量子数N=2の準位でも、同様のスピンに依存する温度依存性が観測された。以上の結果から、このスピンに依存する温度依存性が、試料の移動度、ランダウ量子数、磁場などに依らない、一般的な現象であることが明らかになった。さらに、高温超伝導体がの磁化にヒステリシスがあることを利用して、磁場の掃引方向を反対にし、磁場分布を反転して測定した。その結果、低移動度の試料において、スピン分離は不十分ながら、温度依存性の電子スピン依存性が逆転することが観測された。すなわち、磁場増加中のときにはスピン↓のランダウ準位の温度依存性が顕著なのに対して、磁場減少中ではスピン↑のランダウ準位の温度依存性が顕著に現れた。しかし、このランダウ準位のスピンに依存する温度依存性を説明する理論は、現在のところ存在しない。
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