X線発光スペクトルを用いた研究の中でも、内殻電子をしきい値近傍へ励起したときのスペクトル(X線共鳴非弾性散乱(RIXS))を用いた研究は、理論的な指摘を受けて物質のバンド構造の研究へ応用することが考えられてきている。これまでバンド構造研究に用いられてきた光電子分光や逆光電子分光と比較して、RIXSをバンド構造研究に応用した場合の利点としては双極子遷移に伴う明確な選択則を持っていること・バルクの情報を知ることが出来ること・チャージアップの影響を受けないため測定試料を選ばないこと・各種試料環境条件下でも測定可能でこと等が考えられる。特に入射光及び非弾性散乱光を硬X線領域にすれば、逆格子空間をくまなく走査することが可能となるであろう事が期待される。磁気円二色性(MCD)測定を行えば、強磁性体の磁気的バンド構造に関する情報を得ることが出来ることも期待されていた。本年度は強磁性体の磁気的バンド構造研究を行うための予備実験として、強磁性Gd化合物におけるGd 3d-2p及び4d-2p RIXSの磁気円二色性(MCD)測定を行い、多重項に基づいた原子近似による理論計算結果との比較を行った。入射X線のエネルギーが吸収端よりも十分に高いときのMCD-RIXSスペクトルは、原子近似で十分説明可能であることが判った。吸収端直上のエネルギーを持ったX線を入射したときにはMCD-RIXSスペクトルは原子近似計算から大きくずれており、このずれが磁気的バンド構造を反映していることを、他の実験手法との比較から解明した(論文投稿中)。
|