1.原子内クーロン相互作用を含んだ多重軌道タイトバインデング模型に対して、局所的三体相関を取り入れて電子構造を計算する理論を発展させ、この理論を高温超伝導体の母体物質であるLa_2CuO_4および関連物質Sr_2CuO_2Cl_2に適用した。ハートリーフォック近似に三体相関を取り入れた自己エネルギー補正を行い、励起スペクトルを計算した。この自己エネルギー補正により、La_2CuO_4およびSr_2CuO_2Cl_2の一粒子励起スペクトルは大幅に改良され、光電子放出実験とよく一致するバンドギャップ、サテライト構造および準粒子分散関係が得られた。 2.二次元ハバード模型の完全強磁性状態に、局所近似を用いずに三体散乱理論を適用し、完全強磁性状態の安定性を調べた。今までになされている変分計算の結果が改良され、局所近似を改良する道筋が明らかになった。 3.三体散乱理論はもともとのファデエフ方程式を解くことの困難さから、局所近似がよく用いられる。局所近似を系統的に改良する目的で、ハートレーフォック基底状態から三粒子励起状態を構成する場合に、運動量空間でのサンプリングを行う方法を提唱した。また、この方法の有効性を明らかにするため、二次元ハバード模型の反強磁性状態に適用して、モンテカルロ計算の結果とよく一致する結果を見い出した。 4.LaMnO_3にたいして、ab-initioなバンド計算を用いて共鳴X線散乱スペクトルの計算を行った。K-吸収端近傍のエネルギー領域において、Mn-3d軌道秩序に対応して禁制スポットに散乱強度があらわれるが、実験結果をよく再現するとともに、このスペクトルは直接の軌道秩序の反映というよりもヤーンテラー歪みによる酸素の影響を反映していることを明らかにした。また、K-吸収端近傍から10eVくらい下のエネルギー領域(pre-edge)に対しても詳しい計算を行い、上記の場合の1/100くらいの強度であるが、禁制スポットに対応する散乱強度を得た。この強度は、Mn-4p状態が周りのMn-3d状態と混成することを通して生じており、間接的ではあるが、Mn-3d軌道秩序の反映であることが明らかになった。対応するpre-edge領域での実験はまだ行われておらず、実験が望まれる。
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